「……なんの、こと、ですか」
その目に、息を殺される。
あまりにも綺麗な顔は心臓に悪い。
私のような、免疫のない女の前でそれを振り撒くのはやめていただきたい。そう、悪態づきたいのに。
そう、言えないほど、私と蓮見さんの距離は先輩社員と後輩社員の域を越えていた。
「お前が仕事をおちおち忘れるような女じゃねえことなんざ分かってる。……それをどうして言わねえんだよ」
乱暴な言葉の中に私を評価するような言葉が紛れていて、訳もなく戸惑う。
この人から、そんな風に思われていたなんて思いもしなかった。だから、だからだ。それで、動揺した。
「そんなの、言ったところでどうにもならないじゃないですか。それに――」
あんな女たちに屈するようなことだけは、絶対にしたくなかった。
そう、呟こうとした私の唇に、生ぬるい感触がした。
視界いっぱいには見たこともないような距離の上司がいる。その距離に、脳内の冷静さは損なわれた。
理解の範疇を越えた行動に、呼吸が遅れる。
今自分の唇に、体に触れているのは――。
「いっ……!!」
スパークしかけていた脳が痛覚を訴えた。
それと同時に反射的に手が動いて、目の前の男を突き飛ばしていた。
何が起きたのだろう、と考える隙もなく、手が無意識に熱くなった唇を触っていた。
どくどくと脈打っている唇に触れてその手を視界に映し出せば、紅い血が薄らと滲んでいた。
その色に、わけもなく怒りが込み上げてくる。
その怒りに身を任せて蓮見さんの方を向けば、挑発するように下唇を舐めあげる男がいた。
その姿はあまりにも妖艶で、脳が眩んだ。
その目に、息を殺される。
あまりにも綺麗な顔は心臓に悪い。
私のような、免疫のない女の前でそれを振り撒くのはやめていただきたい。そう、悪態づきたいのに。
そう、言えないほど、私と蓮見さんの距離は先輩社員と後輩社員の域を越えていた。
「お前が仕事をおちおち忘れるような女じゃねえことなんざ分かってる。……それをどうして言わねえんだよ」
乱暴な言葉の中に私を評価するような言葉が紛れていて、訳もなく戸惑う。
この人から、そんな風に思われていたなんて思いもしなかった。だから、だからだ。それで、動揺した。
「そんなの、言ったところでどうにもならないじゃないですか。それに――」
あんな女たちに屈するようなことだけは、絶対にしたくなかった。
そう、呟こうとした私の唇に、生ぬるい感触がした。
視界いっぱいには見たこともないような距離の上司がいる。その距離に、脳内の冷静さは損なわれた。
理解の範疇を越えた行動に、呼吸が遅れる。
今自分の唇に、体に触れているのは――。
「いっ……!!」
スパークしかけていた脳が痛覚を訴えた。
それと同時に反射的に手が動いて、目の前の男を突き飛ばしていた。
何が起きたのだろう、と考える隙もなく、手が無意識に熱くなった唇を触っていた。
どくどくと脈打っている唇に触れてその手を視界に映し出せば、紅い血が薄らと滲んでいた。
その色に、わけもなく怒りが込み上げてくる。
その怒りに身を任せて蓮見さんの方を向けば、挑発するように下唇を舐めあげる男がいた。
その姿はあまりにも妖艶で、脳が眩んだ。



