「……今後は何でもすぐに報告をあげるようにしろよ」


たった一つのミスで、使えない女に成り下がってしまった自分がくやしかった。


「ご迷惑をおかけしました」

「おー」


胸の中をもやもやと言いようのない不快感が擡げていて、肺から酸素を吐きだしても、その不快なものは取り除けそうになかった。


私がたった今完成させた資料に目を通している蓮見さんの真剣そうな瞳を見つめながら、こらえきれないため息を吐きおろす。黙っていれば、とても綺麗な男に見えるのに。

そんな風に私が評価しているなどこの男は知りもしないだろう。


どこまでも私に興味のないこの男から、私ももう一度目を逸らしていた。


00:00。


時計がいつの間にか私たちを次の日につなげているのを知った。


2月15日。

今日もまた一日が終わって始まった。

その境目をこの男と過ごしている自分にまたため息がこぼれる。


「朝倉、」


そんな私に蓮見さんの低い声が被った。


「はい?」


つい少し前まで、私の向かいの席にいたはずの上司は、気が付けば私のデスクの横に立って私を見下ろしていた。
その移動の速さに吃驚する。


真夜中の今、オフィスにはもちろん私と蓮見さん以外誰もいなかった。

蛍光灯も私たちのいるフロア以外にはついていないだろう。そこまで考えて、私は今更ながら、だいぶ遅くまで上司に付き合わせてしまっていたことを思い出した。