「……あった、かもな」
「ははは、あったんだよ~。……その時、何も言わないで消しゴムとシャープペン貸してくれたでしょう。あの時も、優しい人なんだなあって思ってたの」
「……」
ころころと転がるように笑う星野の声に、喉元が詰まるような感覚を覚えていた。
あの頃、ひどいいじめを受けていたこいつを、俺はどうすることもしなかった。
守ろうなんて思いもしなかった。
そんな俺を、こいつは笑いながら褒めそやしている。その状況があまりにもありえなくて、それでも、こいつらしかった。
こいつはいつでも誰かのせいにしたりしなかった。
自分の苦しみを、誰かに押し付けたりなどしなかった。俺はこいつのその態度が――。
「……お前さ、正直に言えばよかっただろ」
「え? 何を?」
「あれ、忘れたんじゃなくて、盗まれたんだろ」
「ええー?そうだったかなー。もう忘れたよ~」
「……あ、そ」
だらだらと続く道は駅へと俺たちを導いて行く。
その道の上で、俺はこの不可思議な時間をしっかりと噛み砕いていた。
俺は知っていた。
あの日、あの筆箱が、盗まれていたことを。
俺は知っていた。
あの日のあの筆箱が、今どこにあるのかを。



