そう――この女は、星野だ。

中学三年間、奇しくも俺が同じクラスになってしまった根暗女。

その女と、まさかこんな場面で出くわすとは。


「……久しぶりだな」


俺に恐る恐ると声をかけた星野は、俺が思考を呑み込んで声を絞り出せば俺の見たこともないような顔で笑った。


「本当に久しぶりだね。まさか宮岡君と会えるなんて、思ってもいなかったなあ」


その言葉があまりにも意外で。いや、案外わかっていたのかもしれない。

俺の胸には、一つ墨汁のような何かが降ってきたようなむかつきを感じていた。



そうだ。

あの頃も俺は、こいつの声を聞くたびにこんな焦燥感を抱いていた。



毎日のように物が無くなっていたあいつは、それでもいつも誰に訴えるでもなく黙ってノートをとっていた。
ノートが奪われた日には、プリントの裏にペンを走らせて。それでもダメなときは、とうとう手の甲にペンを走らせていた。

そんな奇行は更にいじめを加速させた。

その癖に、星野が自分を乱すことは無かった。




「宮岡君、何か飲む?」


深く、思考の闇に沈む俺を掬うように投げ掛けられる星野の声に「ビール」と返して、横に小さく座っているその姿を盗み見た。

そこには、あの頃とは見違えたような姿の星野がいた。


「……私の顔、何かついてる?」


しろい肌に、大き目な黒い瞳がよく映えていた。昔そこにあった眼鏡は見る影もなく。

ただ、あの日に伸ばされていた髪だけが、変わらずゆらりと揺れているのを見た。