私は窓から手を振って、「お世話になりましたーっ」と叫んだ。




車は出発して、圭斗さんが言った。


「お医者さんばかりですね」


「ふふっ…あの中の3人が担当医なんです」

「えっ?…葉月さん…病院と手結びすぎですよ…」



水谷先生が脳外で、徳孝先生が産婦人科、鬼頭先生が心臓外科。
あ、でもリハビリテーションの増田先生も担当医だから…4人か。






「何か食べていきましょう」


「ん?あぁ、いいですね!」

圭斗さんの提案に、私は賛成した。




「柳さん、『音無』までお願いします」

「はい」



圭斗さん、柳田さんのこと柳さんって呼ぶんだ。

『音無』ってどこだろう…。
なんか名前的にお高い感じが…。



ーー20分後


「どうぞ」

圭斗さんは、私が乗っている後部座席の扉を開けてくれた。


目の前には、the和!!って感じの大きな建物が建っていた。


「ここは『音無(オトナシ)』という和風の御食事処です。多分、聞いていないと思うのですがここを経営しているのは、若と坊のお兄様なんです」

「え?」

「隠していたわけではありませんが…。若は次男なんですよ。
長男には、小さい頃から料理人になりたいという夢があって…それを叶えたんです。
組としても、全力で応援して…だけど、長男は次男の優雅様に重い責任を押し付けてしまったのではないか…と、足が動かないのか、料理人になって5年近く経ちますが…組に来てくださらないんです」