薫から貰ったのは、ファンタジーの物語。


遠い昔、誰も知らない場所に誰もが目を見張るほど美しい、人魚がいた。

その人魚は、お気に入りの場所で、そこに迷い込んだ人間と出会い、恋をした。
その2人の波瀾万丈の人生の物語。


こういう話も大好きだ。



開けた窓から冷たい風が入り込む。



1ページ1ページ、ページをめくる。


「葉月」

「あ、皐月」

「何読んでんの?」

「これ。薫にもらったの」


本の表紙を皐月に見せた。

皐月はマフラーを外しながら、へー、と呟いた。



興味ないなら聞くなっつうの!



「ねぇ、お願いがあるんだけど…」

「ん?」


「最近、みんなが食べ物をたくさん持ってきてくれるんだけど…。追いつかなくて…。退院が近いから持って帰ってほしいの」

「退院!?まじか!」

「うん!」

「おう。分かった。黒龍に持っていったらこれくらいの量、一週間で無くなるな。」



皐月は冷蔵庫を覗いて言った。

冷蔵庫に入らなかったから、棚にもたくさん入っているんだけどね…。