「は…葉月…」



固まって動かない薫君。

俺は階段を転げ落ちるように降りて、葉月を抱き上げた。


顔は真っ青で名前を呼んでも反応はない。


「葉月ちゃん…心臓が悪いんだ……。そんなに、血を…流したら…」




目を見開いたままその場から動かない薫君はひどく動揺している。

動かしてはいけないことは分かっている。



だけど、俺は葉月を抱き抱えて外に出た。


丁度鉢合わせた救急車。救急隊の人に葉月を預け、救急車に乗り込んだ。


「もしもし…っ?」

『どういう事だ!!!なんなんだよ!!!ちゃんと説明してくれ…!!!』

「俺達が葉月を大事にしてることを妬んだ女達が…葉月を階段から突き落とした…っ。血が、たくさん出て…今のままじゃ…葉月も腹の子も…、やばいって…」




兄貴の悲痛な声が電話の向こうから聞こえる。

救急隊の人達は搬送先の病院に確認をとっているみたいで、言った。

「下條葉月さん、18歳。階段から激しく落下した模様。頭部から多量の出血が認められます。意識はありません。呼びかけにも反応はありません。受け入れ可能ですか」

『葉月…!?う、受け入れます!!!』


まさか…葉月の知り合いなのか…?



救急車が向かったのはすぐ近くの大きな病院。





「葉月!!!」

看護師数名に、顔の整った若い男性。

名札には『外科部長 如月 風翔』と書かれていた。



「分かりますか〜?」
「下條さん、分かりますか?病院ですよ〜」

看護師の声も虚しく、葉月は返事をしない。