家の門扉に手を掛けるとベランダに母の姿が見えた。

「ただいま。」

「おかえり。」

母に声を掛けると私は自室に向かった。

部屋の隅に置いてある赤い毛糸。

マフラーじゃなくてセーターを編むというのは無謀だろうか。

パラパラと本をめくった。

(かなり厳しいかも)

とりあえずマフラーを仕上げてしまおうと思い直し編み始めた。

編み始めたころより大分スピードが上がった。

この分だと毎日編めば年内には出来上がるかもしれない。

「お前の笑顔が俺は好きだよ」

編み物をしているといつも先生の事を考えてしまう。

(私も先生の笑顔が大好きです)

そう言えたならどれだけいいだろう。

閉じ込めなくちゃいけない気持ちが苦しくなる時がある。

あと卒業まで2年。

近づきたいけど近づくほど思い知らされる。

私が生徒で先生が教師だということを。