母親を前にすると緊張してしまう。

「話したいことがあって。」

「何?」

仕事から帰宅した母の背中は冷たい。

「進路のことなんだけど。」

「私ね、就職じゃなくて進学したい。
スクールカウンセラーになりたいの。」

言葉を一気に吐き出すと母親の返答を待った。

数秒の沈黙が重い。

「商業高校に入って進学したい?
カウンセラーになりたい?
人を馬鹿にするのも大概にしなさい。
進学するならお姉ちゃんと同じ学校か同レベル。
それが出来ないなら就職なさい。」

(やっぱり・・・そういうと思った)

普段の私なら母親の言葉に素直に従っていただろう。

私は母の前で上着を脱いで半袖の腕を晒した。

「私・・・中学の時、苛められてた。
お母さんには知られたくなくてずっと隠してきた。
弱い子だって思われたくなかったしお母さんに嫌われたくなかった。
でも今は、自分の夢を大事にしたいって思ってる。」

「まだ、あなたは子供だから夢見てるだけ。」

そこからは平行線だった。

何を言っても母の理解は得られそうになく、私は自室に向かった。

(先生・・・)

ハーブティーを飲みながら先生との会話を思い出した。

「お前の未来を創るのは親じゃなくてお前自身だから。」

(理解してもらえるまで、諦めない)

先生がいなかったら、私はこんな風になれなかっただろう。

夢を持つことも、母親に逆らうことも出来なかった。

距離が近づくほどに先生を知ってもっと好きになっていく。

先生が教師じゃなかったら。

私が生徒じゃなかったなら。

先生の気持ちは、違っていたのかな。