翌朝私はずらしていた登校時間を元に戻し、学校に着くとアイツの靴箱に手紙を入れた。

話をするつもりで体育館裏に呼び出した。

授業中は不安でたまらなかった。

でも大切な人を守るためだと気持ちを奮い立たせた。

「柚依っ!!」

放課後、古賀君が教室へ走って来た。

「ごめん、今から用事があるの。」

私は古賀君をその場に残すと体育館裏に向かった。

「前から呼び出しとはね。
偉くなったもんじゃねーか?」

「大切な人を傷つけさせたりしない。」

「けっ、どうやるってんだ?
非力で弱虫で何もできずに這い蹲ってるだけのくせして。」

「こうするの。」

私はポケットに手を突っ込んで鋏を取り出した。

「はあ?」

ザクッ。ザクッ。

てめー、頭おかしいんじゃね・・・。」

はらはらと髪が床に落ちていく。

私は手を止めない。

「やめろ、もうやめろっ。」

アイツが狼狽えるところを初めて見た気がする。

「約束して。
誰も傷つけないで・・・っ!!」

「解ったよ。」

アイツはそれ以上何も言わず立ち尽くしている。

(良かった・・・)

髪なんて惜しくはなかった。

「須藤?」

誰も来ないと思っていたはずの場所に現れたのは伊藤先生だった。

「その髪、お前何があった?
小西、お前がやったのか。」

「俺じゃない、そいつが自分でやったんだ・・・っ!!
もうお前には関わらねーよ!」

アイツは捨て台詞を吐いて逃げて行った。

「大丈夫か。」

「髪を切っただけだから、平気です。」

「これ。」

先生が渡してくれたのはくまのバレッタだった。

「本当に大丈夫なのか。」

「そんなに心配しなくても・・・大丈夫です。」

伊藤先生はホッとした様子で呟いた。

「心臓が痛いくらい心配した。」

その言葉に胸が疼いた。

(生徒だから心配してくれてるだけ)

「家まで送っていくよ。」

「・・・いいです。」

「ご両親が心配するだろう。」

「帰りに髪切りに行きます。
ベリーショートにすれば解らないですから。」

「お前、変わったな。」

「そうかも、しれないです。」

私はにっこり笑った。

帰りにいつも行く美容院に寄るとびっくりされた。

「髪のばすって言ってなかった?」

「その予定だったんだけど良いんです。」

「そう。」

「それじゃあ、ベリーショートにしようか。
短くなっちゃうけど絶対可愛く仕上げたげるから!」

仕上がりを鏡でみると随分とサッパリした自分がいた。

「可愛くなったわよ。」

「ありがとうございます。」

嫌だったショートヘアが好きになれそうだった。

「髪伸ばすんじゃなかったの。」

母は不思議そうに言ったけれどそれ以上追及する事はなかった。

自室に入りハーブティーを飲むと今日の事を思い出した。

(やっと解放されたんだ)

アイツから。

自分の心の闇から。

腕の傷はもうこれ以上増えることはないだろう。

心から安堵した。