「そろそろ終わるか?」

「伊藤先生。」

「今からお裾分けを持って行こうかと思っていた所です。」

汐見先輩は綺麗にラッピングされた袋を先生に手渡した。

「今日は新しく入部してくれた須藤さんも一緒に作ったんです。」

「そうか、有り難く頂くよ。」

「これからも仲良くしてやってくれ。」

先生はちらりと私の方を見たけれどそれはほんの一瞬だった。

「今日はとっても楽しかったです。」

「ありがとうございました。」

「そう言ってもらえると嬉しいな。」

「それじゃあまた来週、待ってるね。」

ぺこりと頭を下げ、私と紗智は二人と別れ昇降口へ向かった。 

靴箱で解けた靴ひもを直していた、その時だった。

「ゆずちゃん、走って!!」

紗智は急に駆け出し、校門まで来て足を止めると私に謝罪した。

「・・・小西君がいたから逃げなきゃって。」

「ゆずちゃんは大切な友達だから紗智だって守ってあげたいもん。
防犯ベルより役に立つから!!」

「紗智ってば。」

「あ、ゆずちゃんが笑った。
ゆずちゃんは、あんまり笑わないけど、笑顔の方が絶対いいよ。」

先生の言葉と同じだ。

「ゆずちゃんっ??」

「・・・あれ。」

勝手に涙が目から零れてくる。

あの時よりずっと先生が遠い。

それだけなのに、心が痛かった。

好きでいるだけ、見つめているだけ・・・それじゃ嫌だと恋が叫んでいた。

最初はただの教科担当の先生だった。

閉ざしていた心をぽかぽか照らす太陽の笑顔を好きだと思うようになり、いつの間にか恋していた。

でも今は恋じゃ足りなくなっている。

先生。

あの時の答えの続きを聞かせて下さい。

このままじゃ、苦しくて
このままじゃ、嫌なんです。