(う、ん・・・?)

指先に温もりがある。

ごつごつしたおおきな手のひら。

誰なんだろう。

「起きたのか。
大丈夫・・・じゃないな。
もう少し寝てて良いから。」

(どうして伊藤先生がいるの・・・?)

「お前の担任の和田先生が今日はお休みなんだ。」

私のぐるぐる思考回路を無視して先生は言った。

「保健の濱上先生が職員室に連絡に来られたんだが俺しかいなくて。」

「他の先生がいらしたら良かったんだが。
・・・お前は俺じゃない方が良かっただろうし。」

「そんな事ないです・・・。」

言いかけて起き上がった時、ブラウスの袖のボタンが解けていることに気が付いた。

血の気が引いた。

見られてしまったんだろうか。

「もう一人でも大丈夫です。
だから・・・お願いします、一人にして下さい。」

混乱していた。

ふらふらの頭で立ち上がろうとしてよろけてしまった。

私を抱き留めてくれた先生はポンポンと背中を叩いてくれた。

「・・・俺しか見てない。
誰にも言わないから、辛いなら話してみないか。」

「信じられない。
誰も、信じられない・・・っ。」

「他の誰を信じられなくても、俺だけは信じろ。
俺がお前を守ってやる。」

不思議な気分だった。

先生の言葉はアスファルトに降る雨のように渇いた私の心にしみ込んで潤した。

「まだ信じられないなら、ほら。」

小指を近づけてくる。

「約束。」