柔らかな日差しと花薫る風。

春が四季の中で一番好き。

図書館の窓いっぱいに広がる桜はとても綺麗だ。

一年前、ここで伊藤先生に出会った。

その時は恋なんて自分には縁がないと思っていた。

先生の優しさが私を変えた。

「須藤先輩。」

「どうしたの?」

「貸出カードがいっぱいになったらどうしたらいいですか?」

私は今年も図書委員になった。

誰も立候補しなかったので伊藤先生に指名されたから。

同じ曜日を担当するのは1年生の加賀崎芽衣ちゃん。

本好きの大人しい女の子だ。

「須藤先輩、もうラックが返却本でいっぱいなんですけど・・・。」

「整理にいこっか。」

ラックを押しながら本棚に向かった。

本を片づけているとカウンターに人影が見えた。

「ごめんね、ちょっとカウンター行ってくるね。」

私は急ぎ足でカウンターに向かった。

「須藤。」

「伊藤先生。」

先生は何も持っていない。

司書の佐藤先生に用があるのだろうか?

「お前に用事があって。」

「私にですか?」

「ああ、後で国語科準備室に来れるか?」

「図書委員の業務が終わってからでいいですか?」

「解った、待ってる。」

そう言うと伊藤先生は図書館から出て行った。

(何の用事だろう?)

本棚に戻るとラックの本は殆ど片づけられていた。

「後の本、高くて届かなくて。」

「踏み台があるから持ってくるね。」

本を片づけてカウンターに戻り閉館時間まで業務をこなした。

「お疲れさま。」

「お疲れさまです。」

ぺこりとお辞儀をして加賀崎さんは帰っていった。

図書館の鍵を閉めて職員室に返してから国語科準備室に向かった。