愛輝は、病院の駐車場に車を停めた。

 愛輝は、車の運転免許を取った。
 拓真は運転手付きの車を用意すると言ったが、のどかの学校や病院の送り迎えにも必要だと思ったし、やれる事は何でも試してみたかった。


 ヒカリの話題など、今ではほとんど耳にしなくなった。


 次から次へ移り変わる世界で、ヒカリの事は忘れさられつつある…… 

 それでも、誰かの胸の中で、力強くもそっと残る存在になれたのなら……
 



 最近は、あゆみの姿もあまりテレビで見かけなくなった。
 美香の言葉を思い出し、感心しながらも、少し複雑な思いが残る…… 
 しかし、人にはそれぞれ生き方というものがあるのだから、仕方のない事なのかもしれない……


 のどかが、病院の入口のドアから軽い足取りで出てくるのが目に入った。

 愛輝は車からおりると、のどかに手を振った。


「愛輝さん、いつもありがとう……」


「いいのよ…… のどかちゃんにも会いたかったし、往復電車じゃ疲れるでしょ」


「実はね、満員電車はまだちょっと大変なの」

 のどかは、かたを窄めて言った。


「こんなに歩けるようになったんだから、無理せず行こう」

 愛輝はのどかに笑顔を向けた。


「うん。でもね…… もう少し頑張れば、走れるようにもなるって」


「本当に! すごいじゃない。真二くんも凄く喜ぶだろうな……」

 愛輝は少し遠くを見て言った。



「そうだね…… お兄ちゃん今頃どうしているのかな? 時々メールが届くけど、私の足の心配ばっかりで、お兄ちゃんの事は何も教えてくれないんだよね……」

 のどかは口を尖らせた。


「きっと、忙しいんだよ」

 愛輝はそうは言うものの、真二の事を思い出さない日など無い。

 どうしているのか、気にならない訳などない……



「愛輝さん、アメリカに逢いに行けばいいのに……」


「えっ? いいのよ…… きっともうすぐ帰ってくるから……」

 愛輝は自分に言い聞かせるように言った。
 だって、待っているって決めたんだから……