嘘は輝（ひかり）への道しるべ

　振り向いた先に立っていたのは、岸谷祐介(きしたにゆうすけ)二十五歳。

　父の親友の息子で、年に一度程アメリカから、愛輝の家に遊びに来る。背が高く、ハッキリとした目が印象の男らしいイケメンだ。
　黒のおしゃれなシャツを着こなし、カッコ良さが益々引き立っている。

「祐介さん、来ていたの？」

　愛輝の声にが、さっきまでの泣き過ぎて擦れたた声が嘘のように明るくなった。

　愛輝は美香を紹介しようと、美香の方を振り向いたが、美香の表情に言葉を失ってしまった。

　美香の目はハートになって、ウルウルしながら祐介を拝むように見つめている。


「私、愛輝の親友で山内美香って言います。今、愛輝がバカな男子生徒に振られて、心配でついて来たんです」

　美香は、勝手に自己紹介を始めた。
　その上、美香の頭の中から、自分が具合悪い事にしようなどと言った事は、すっかり吹き飛ばされてしまったようだ。


「もう！　ちょっと何言っているのよ！」

　愛輝が慌てて止めようとしたが、


「えっ！　どういう事？」

　祐介が以外にも、興味深々な表情で聞いてきた。


「実はですね…」

　美香は庭のテーブルに腰を下ろすと、祐介と向き合うようにべらべらとしゃべり出した。

　親友の失恋話に目を輝かせて祐介を見つめながら話す美香を、愛輝は初めて悪友だと思った。


　美香の話を聞きが終わると、祐介は腕を組み何か考えているようだった。


　愛輝は恥ずかしさのあまり、美香の手を引っ張るが動こうとしない。


「ヨシ！　分かった。付いておいで。美香ちゃんも手伝ってくれるかな？」

　祐介は、ニコリと笑顔を見せ、家の中へと入っていった。


「はーい！」

　美香は元気に返事をすると、今度は逆に愛輝の手を引っ張り、祐介を追いかかけるように玄関へと向かった。


　祐介が何を考えているのか、愛輝にはさっぱりわからないが、力強くも優しい美香の手に、ただ引っ張られて行くしかなかった。