「そんな訳ないじゃない」

 愛輝は慌てて、ミルクティーを飲んだ。


「そうだよな… 例えそうだったとしても、『うん』なんて言う訳ないよな……」

 拓海は少し寂しそうに笑った。


「……」

 愛輝は、その場を取り繕う言葉が見つからず黙ってしまった。


「別にいいんだ。ただ、そうだったらいいのになって思っただけ」


「どうして?」



「愛輝を傷つけた仕返しだったら、救われるかなあと思って」

 拓海がもう一度、愛輝に答えを求めるかのようにじっと見つめてきた。


「何よ、それ?」

 愛輝は、拓海から目を逸らしたが、拓海の言いたい事が分からない。


 拓海は、軽く深呼吸をしてから口を開いた。

「実は俺、教師になろうと思って」

「ええっ!」

 愛輝は驚いた。


「そりゃ驚くよな。俺みたいな奴が先生じゃ子供の将来が心配だよな……」


「そうじゃなくて。自分の将来の事を考えているんだと思って」

 愛輝は、拓海が自分の道を見つけている事に、胸の中で何かコトンと動く音がした。


「あたり前だろ。ただ大学に行っている訳じゃないんだから…… 愛輝だって就職先とか考えているだろう?」


「うん、まあ」

 愛輝は答えながら、自分の将来? 

 これからどうなっていくのだろう? 

 愛輝は、自分が何も考えていなかった事に戸惑った。


「俺さ、小さい頃から悪い子だったんだ。自分が一番じゃなきゃ嫌で、俺より出来そうな子が居るといじめたりして…… だから、そういう子達の気持ち分かると思うんだ。一番になる事じゃなくて、人の気持ち考える事の大切さを教えてやりたいんだ…… 俺には無理かな?」
 
 拓海は恥ずかしそうに下を向いた。


「ううん。拓海くんなら、きっといい先生になるよ。サッカー部の顧問とかやって。拓海くんみたいな子には、拓海くんみたいな先生が必要だと思う」


「おい! それ褒めてないよな……」


「ごめん……」

 愛輝と拓海は目を合わせ笑った。


「今度、教育実習があるんだ。愛輝にきちんと謝ってから教団に立ちたかったんだ。ありがとう。時間取らせて悪かったな」

 拓海は伝票を手に立ち上がった。


「私も払うわ」


「いいよ。おごらせて」


「ありがとう」

 愛輝は、拓海の言葉に甘えた方が、拓海が納得するような気がした。


「なあ、愛輝。付き合っている奴いるの?」

 拓海が立ち上がったまま言った。


「うん…… 大切な人がいる……」

 愛輝の目が悲しげに変わった。


「そうか、残念……」


「えっ?」


 愛輝が拓海を見たが……

 拓海は何も言わずレジへと向かった。