真二は、ニューアルバムのレコーディングに入っていた。
 スタジオには、リョウを始めとしメンバーが音合わせや、スタッフとの打ち合わせに慌ただしく動いていた。


「こんにちは」

 と、スタジオのドアを開け入って来たのは、まだ十代と思われる小柄で可愛らしい女の子だった。
 その声に、リョウが手を上げた。


「差し入れ持って来たんだけど」

 その女の子は、リョウにドリンクの入った袋を見せた。


「お― サンキュ― みんな! こいつ俺の従妹で、折原(おりはら)あゆみ! 来月うちの事務所から、アイドルデビューの予定だから、よろしく!」

 リョウの大きな声に、皆が目を向けた。


「折原あゆみです。よろしくお願いします」

 あゆみは、ニコリと可愛らしく首を傾けてあいさつした。

 スタッフの歓声と拍手が上がった。

 あゆみは、一人ひとりに、持って来たペットボトルのドリンクを渡し始めた。

 当然、真二の所へも来た。


「何がいいですか?」

 あゆみが真二に尋ねた。


「スポーツドリンクで……」

 真二は、音合わせの手を止める事なく答えた。


 あゆみがドリンクを真二に渡そうとしたが、手が滑って臥床にペットボトルが落ちた。

 慌てて拾った真二とあゆみの手が重なった。


 慌てて、「ごめんなさい」と謝るとあゆみは走り去って行った。


 あゆみがリョウの横で

「ねえ。あのギターの人なんて言うの?」

 リョウに声に聞いた。


「木崎真二」

 リョウは答える。


「かっこいいね」


「おい、デビュー前にゴタゴタは勘弁してくれよ!」


「うん」

 あゆみは肯いたが、目は真二を追っていた。



 それから、あゆみは時々差し入れを持って真二の仕事先へ顔を出すようになった。

 真二はあゆみの存在など全く気にしていなかったのだが……