「愛輝はさあ… ヒカリの正体がバレてしまった事と、その真二って男に嫌われた事と、今日の涙はどっちだったの?」
美香がはじめに口を開いた。
「どちらかと言えば、ヒカリの正体がバレてしまった事より、真二くんに『興味が無い』って言われた事の方がショックだった…」
愛輝が鼻水を啜りながら言った。
「愛輝で振られるならまだしも。ヒカリでも振られちゃあどうしようも無いな…」
美香が冗談まじりに言った。
「ヒカリだって分かって、ちやほやする男じゃないから…… 悪い奴だとは思わないが、口止めをして置く必要がありそうだな」
祐介が険しい表情で言った。
「それなら大丈夫」
愛輝が即座に言いた。
「大丈夫って?」
「私、真二くんの秘密知っちゃって、交換条件になっているから…」
愛輝はこれ以上突っ込まれたら困ると思い下を向いた。
「もしかして、川島リョウのゴーストライターの件か?」
祐介の口から出た言葉に愛輝の表情が変わった。
「なんで祐介さん、知っているの?」
愛輝は驚きのあまり、とっさに誤魔化す事が出来なかった。
そもそも祐介に、愛輝の誤魔化しなど通用しないのだが……
「業界で少し噂になっている。ゴシップ記者がうろついているて話を聞いた…… 本当だったのか?」
「絶対黙っていてよ!」
愛輝が慌てて祐介の顔を見た。
「勿論言わないさ。まあ、どっちにしてもしばらくは、真二って男には近づかない事だな。ヒカリが巻き込まれる危険もあるからな……」
「会うなって言われているんだから、近づける訳ないじゃない……」
愛輝は又、思い出したように声を出して泣き出した。
美香と祐介は、やれやれと両肩を竦めた。
「しかし、あのミュージックビデオ売れるだろうな?」
美香が思い出したように口を開いた。
「かなり話題になるだろうな。又、仕事増えそうだな…… 愛輝も大学生になるし、忙しくなるぞ!」
「だけど、愛輝に歌や演技は無理だよ。絶対正体ばれるよ。」
美香は心配しているようだが、愛輝の実力の無さをはっきりと言った。
愛輝もはっきり言われ、落ち込んでいる事は確かだが、今は、落ち込みどころが違っている。
「事務所だってそんな事は分かっているよ。仕事だってきちんと見極めて受けているよ」
「そうだよね」
美香は安心したように笑みを見せた。
愛輝は、美香と祐介の仕事への熱心な話題と裏腹に、真二の事で頭も胸もいっぱいだった。
真二になんであんな事を言ってしまったんだろう……
素直に謝るべきだったと後悔したがもう遅い。
真二に嫌われたと思うと、愛輝の目かららは涙が止まらなかった……
美香と祐介の予想通り、川島リョウの新曲『届かない涙』は、ヒカリの涙が話題となり売上に反響を呼んだ。
スクランブル交差点の大型スクリーンで流れる『届かない涙』のミュージックビデオに、通り行く人達が足を止めた。
切ない歌詞とヒカリの綺麗な涙が、見る人の心を掴んでいた。
愛輝はこの曲を聞く度に、真二への思いが強くなっていく。
しかし、『届かない涙』に隠された、愛輝と真二の思いとは反対に、二人が会う事は無いまま時が過ぎていた。


