ヒカリは、固まったまま言葉が出ない……
「あの…… 俺、川島リョウのバックでギターやっている木崎って言います。突然で、本当に申し訳ないんだけど、妹が君の大ファンで、今ちょっと入院していて、君のサインもらえる嬉しいんだけど。無理かな?」
真二が申し訳なさそうに、手にしていた色紙を見せた。
ヒカリは、真二の言葉が遠くで聞こえ、動揺を隠すのに必死だった。
「勿論いいですよ。大ファンなんて嬉しい」
ヒカリは震える手を押さえ、無意識に色紙にサインをした。
あまりに動揺し過ぎて、頭が回っていなかったのだ。
「はい。どうぞ」
とヒカリは色紙を真二に向けた瞬間、しまったと思ったが遅かった。
色紙に『のどかちゃんへ…… 手術出来るように祈っています』とうっかり書いてしまったのだ。
色紙を見た真二の目が不信な動きに変わった。
「何で妹の名前? 君だれ?」
真二がヒカリの目をじっと見た。
ヒカリは真二の視線から目を逸らす事が出来ずに立ち尽くした。
「……」
「祈っているって…… まさか愛輝?」
「ごめんなさい……」
ヒカリは手をぎゅっと握って頭を下げた。
「ごめんて…… 騙していたって事かよ?」
真二は冷ややかに言った。
「そんなつもりじゃ……」
「ふふっ、俺バカみたいだな……」
真二は鼻で笑った。
真二のその姿に、ヒカリは抑えていた気持ちが弾けてしまった。
「あなただって、騙しているじゃない!」
愛輝は思わず口にしてしまった。
今、そんな事を言ってはいけない事は分かっている……
「騙しているって何を?」
真二の冷たい目は、明らかに怒りを表していた。
「届かない涙…… あれ、あなたの曲でしょ! 私見たんだから、あなたが書きかけであの曲の楽譜持っていたの! どういう事よ? もしかして『嘘』もあなたの曲なんじゃ……」
「うるさい!」
真二がヒカリ睨んだ。
「ほらみなさいよ!」
もう、言ってしまった事は取り消せない……
「いいか! お前の事は誰にも言わない! 興味も無い! その代わり俺の事も絶対誰にも言いうな! それから二度とのどかにも会うな! いいな!」
真二は吐き捨てるように言うと、ヒカリを鋭い目で睨み、色紙を荒々しくゴミ箱に捨てると、激しい足取りで去って行ってしまった。
真二の背中にヒカリは何も言葉を返す事が出来ず、何かが崩れて行く音を胸の奥で感じた。


