嘘は輝(ひかり)への道しるべ

「のどかちゃん、ここに居たの。ちょうど良かった、お兄さんもいっしょね」

 若い女性看護師がのどかに近づいて来た。

 真二は立ち上がり、のどかの車椅子を押し看護師の方へ向かった。


 その時、突然吹いた風に、真二の座って居たベンチから一枚の紙が舞った。

 愛輝は芝生に落ちた白い紙をそっと拾い上げた。

 その紙には『届かない涙…』とあり、五線に音符が書かれ、下に歌詞が綴られていた。
 何度も消され未完成の歌詞に、愛輝の目から涙が落ちた。
 愛輝は慌てて、手にした紙をベンチの上に気付かれないよう戻した。


「愛輝さん聞いて。来週の期末テスト学校で受けてもいいって! 次の検査まで、しばらく学校通っていいって!」

 のどかが、声を弾ませて愛輝に近づいて来た。

 愛輝は慌て涙を拭うと、のどかに笑顔を向けた。


「良かったじゃない。じゃあ頑張ってテスト勉強しなくちゃ!」

 愛輝は、自分にも向けて元気の良い声を上げた。


「あのね、お兄ちゃんがね、テスト終わったらディズニーランドに連れてくれるって! 愛輝さんも一緒に行こうよ!」

「えっ。でもお兄ちゃんとせっかく行くのに、私はいいわよ」

 愛輝は口ではそう言いながら、心の中では、突然の出来事に期待に胸を弾ませた。


「お兄ちゃんと二人だけじゃ、つまらないよ―。いいじゃん、行こうよ」

 のどかが、せがむように愛輝の手を引っ張る。


「なんだよ! あれだけ連れてけって言っておいて…… つまらないは無いだろう!」

 真二は呆れたように言った。


「ごめん。おにいちゃん…… でも、愛輝さん一緒ならもっと楽しいよ!」

 のどかが、真二に両手を合わせて頼んでいる。


「のどかがどうしてもって言っているし、もし都合が良ければ一緒に行ってやってくれるか?」

 真二が少し申し訳なさそうに、ぽつりと言った。


「えっ。いいの?」

 愛輝は、口では遠慮しながら、慌ててスケジュール帳を開いていた。


「ぎぁ~ 私もテストだった! 金曜日の午後ならテストも終わるし大丈夫だけど…」

 愛輝は仕事が入っていない事を確認した。

「テストを忘れるなんて余裕だな…」

 真二は皮肉っぽく笑って言った。


「あははっ。色々バタバタしていて… テストって言っても三年だから、大学も推薦で決まっているし…」

 まさか仕事が忙しくてなどとは言えず、愛輝は苦し紛れの言い訳に、冷や汗を拭った。


「やったあー。それじゃあ一時に舞浜の駅ね!」

 のどかが飛び上がりそうな勢いで喜んだ。
 勿論、愛輝も飛び上がりたい程嬉しかった。
 思ってもいない真二とのディズニーランドに、胸の高鳴りを押さえられなかった。

 様々な、偽りや不安を抱えていても、目の前の嬉しい出来事に。


 ただただ胸が弾んでしまう……