「あっ、お兄ちゃん!」のどかが声を上げた。
愛輝は振り向いた先の、男の顔に見覚えがあった。
この間スタジオの階段で、愛輝を助けてくれた男だ!
「今ね、愛輝さんに勉強教えてもらっていたの。もう楽しくて」
のどかが嬉しそうに話すが、愛輝は慌てて立ち上がった。
「すみません… 先日は助けて頂いて、ありがとうございました」
愛輝は深々と頭を下げた。
「えっ……」
のどかの兄は、サングラスを外して愛輝を見た。
その切れ長の目の奥の眼差しに、一瞬時間が止まり、愛輝の胸は、何かに締め付けられたように苦しくなった。
一目惚れってこう言う事を言うのだと気付いたのは大分後になってからだ……
愛輝は、のどかの兄から目が離せなくなってしまっていた。
「ごめん…… どこかで会ったのかな?」
のどかの兄は、少し申し訳なさそうな目で愛輝を見た。
愛輝は、のどかの兄の言葉に我に返り、慌てて口を開いた。
「あの、青山のスタジオの階段で助けて頂いた」
「ああ、あの時の…」
のどかの兄は思い出したようだ。
「え―。 お兄ちゃん愛輝さんと知り合いなの?」
のどかが驚いた声を上げた。。
「そんなんじゃねぇよ。目の前を落ちて行ったから、拾っただけだ」
「愛輝さん何か落としたの?」
のどかが何の疑いも無い眼差しを愛輝に向けた。
「自分をね…」
愛輝が力なく言った。
良く考えてみれば、自分のドジを改めて好評したようなもんだ。
その言葉に、「プッ」とのどかの兄が噴出した。
「お兄ちゃん! 笑ったら失礼よ。私、もう一門だけ教えてもらいたいの。いい?」
のどかが兄を睨みながら言った。
「ああ…… 妹が世話になっているみたいで、すみせん……」
のどかの兄は頭をさげると、窓際の椅子に座り、慣れた手つきでギターケースからギターを取り出した。
愛輝は、のどかの兄の姿を目で追ってしまっていた。
「ねえ、愛輝さん。川島リョウって知っている?」
「勿論よ!」
愛輝はのどかの声に、ハッとなり少し力の入った声で答えた。
「お兄ちゃん、木崎真二(しんじ)って言うんだけど、川島リョウのバックでギタリストやっているのよ」
のどかが、兄を自慢するように得意げに言った。
「ええ―。うっそ―」
愛輝が悲鳴を上げたのは無理もない。
「余計な事言うんじゃない!」
真二の声が上がり、のどかを睨んだ。
しかし、愛輝は興奮して、口が勝手に動き出してしまっていた。
「私『嘘』が大好きなんです」
愛輝が、真っ直ぐな瞳を向けて真二を見た。
「えっ」
顔を上げた真二の目が、愛輝を見て息を呑んだ。
「好きって言うか、聞いていると落ち着くんです。嬉しい時でも、辛い時でも聞きたくなるんですよね。嘘をつく事の苦しさと、誰かを助ける為の強さみたいな。私、『嘘』を聞かない日ないな… あんな素敵な曲作れるなんて、川島リョウって凄い人ですね」
愛輝が両手を胸に当て声を弾ませて言った。
だが、真二の表情は愛輝と反対に険しくなり視線を逸らされてしまった。
「のどか、そろそろ戻ろう」
真二はギターをケースにしまいながら言った。
「愛輝さん、又勉強教えてくれる?」
「勿論いいわよ」
「私、315号室。愛輝さんのお父さんの部屋は?」
「301号室よ」
「え―。特別室だ!」
のどかは目を丸くして驚いて言った。
「あはははっ」
愛輝は笑ってごまかした。
真二は愛輝に軽く頭を下げ、のどかの車いすを押して出て行った。
真二の表情に愛輝は何かマズイ事を言ってしまったのだろうかと落ち込んだが、理由はわからなかった。
なんとなく、嫌われてしまったような後味が残り、胸の中がモヤモヤとしていた。
病院を出てからも、愛輝はこころの中で何度も、『木崎真二』と繰り返し呟いた。
そして、病院の入口を出ると、さっきまで真二がギターを手にして座っていた窓を見上げた。
そして、ふと視線をずらすと、病室の窓に真二の姿があった。
一瞬目があったような気がしたが……
気のせいだろう……
愛輝はまた、病院を背に歩き出した。
愛輝は振り向いた先の、男の顔に見覚えがあった。
この間スタジオの階段で、愛輝を助けてくれた男だ!
「今ね、愛輝さんに勉強教えてもらっていたの。もう楽しくて」
のどかが嬉しそうに話すが、愛輝は慌てて立ち上がった。
「すみません… 先日は助けて頂いて、ありがとうございました」
愛輝は深々と頭を下げた。
「えっ……」
のどかの兄は、サングラスを外して愛輝を見た。
その切れ長の目の奥の眼差しに、一瞬時間が止まり、愛輝の胸は、何かに締め付けられたように苦しくなった。
一目惚れってこう言う事を言うのだと気付いたのは大分後になってからだ……
愛輝は、のどかの兄から目が離せなくなってしまっていた。
「ごめん…… どこかで会ったのかな?」
のどかの兄は、少し申し訳なさそうな目で愛輝を見た。
愛輝は、のどかの兄の言葉に我に返り、慌てて口を開いた。
「あの、青山のスタジオの階段で助けて頂いた」
「ああ、あの時の…」
のどかの兄は思い出したようだ。
「え―。 お兄ちゃん愛輝さんと知り合いなの?」
のどかが驚いた声を上げた。。
「そんなんじゃねぇよ。目の前を落ちて行ったから、拾っただけだ」
「愛輝さん何か落としたの?」
のどかが何の疑いも無い眼差しを愛輝に向けた。
「自分をね…」
愛輝が力なく言った。
良く考えてみれば、自分のドジを改めて好評したようなもんだ。
その言葉に、「プッ」とのどかの兄が噴出した。
「お兄ちゃん! 笑ったら失礼よ。私、もう一門だけ教えてもらいたいの。いい?」
のどかが兄を睨みながら言った。
「ああ…… 妹が世話になっているみたいで、すみせん……」
のどかの兄は頭をさげると、窓際の椅子に座り、慣れた手つきでギターケースからギターを取り出した。
愛輝は、のどかの兄の姿を目で追ってしまっていた。
「ねえ、愛輝さん。川島リョウって知っている?」
「勿論よ!」
愛輝はのどかの声に、ハッとなり少し力の入った声で答えた。
「お兄ちゃん、木崎真二(しんじ)って言うんだけど、川島リョウのバックでギタリストやっているのよ」
のどかが、兄を自慢するように得意げに言った。
「ええ―。うっそ―」
愛輝が悲鳴を上げたのは無理もない。
「余計な事言うんじゃない!」
真二の声が上がり、のどかを睨んだ。
しかし、愛輝は興奮して、口が勝手に動き出してしまっていた。
「私『嘘』が大好きなんです」
愛輝が、真っ直ぐな瞳を向けて真二を見た。
「えっ」
顔を上げた真二の目が、愛輝を見て息を呑んだ。
「好きって言うか、聞いていると落ち着くんです。嬉しい時でも、辛い時でも聞きたくなるんですよね。嘘をつく事の苦しさと、誰かを助ける為の強さみたいな。私、『嘘』を聞かない日ないな… あんな素敵な曲作れるなんて、川島リョウって凄い人ですね」
愛輝が両手を胸に当て声を弾ませて言った。
だが、真二の表情は愛輝と反対に険しくなり視線を逸らされてしまった。
「のどか、そろそろ戻ろう」
真二はギターをケースにしまいながら言った。
「愛輝さん、又勉強教えてくれる?」
「勿論いいわよ」
「私、315号室。愛輝さんのお父さんの部屋は?」
「301号室よ」
「え―。特別室だ!」
のどかは目を丸くして驚いて言った。
「あはははっ」
愛輝は笑ってごまかした。
真二は愛輝に軽く頭を下げ、のどかの車いすを押して出て行った。
真二の表情に愛輝は何かマズイ事を言ってしまったのだろうかと落ち込んだが、理由はわからなかった。
なんとなく、嫌われてしまったような後味が残り、胸の中がモヤモヤとしていた。
病院を出てからも、愛輝はこころの中で何度も、『木崎真二』と繰り返し呟いた。
そして、病院の入口を出ると、さっきまで真二がギターを手にして座っていた窓を見上げた。
そして、ふと視線をずらすと、病室の窓に真二の姿があった。
一瞬目があったような気がしたが……
気のせいだろう……
愛輝はまた、病院を背に歩き出した。


