最終審査に残る八人が呼ばれる。
「十六番、ヒカリさん」
審査員の口からヒカリの名前が呼ばれた。
最終審査は指定された衣装で決められたポーズをとる物だった。
愛輝は衣装に着替えると、祐介の前へ座った。
「この衣装なら髪は少しアップにして、首元を出した方がいいな」
祐介は手早くヒカリの髪をまとめた。
最終審査に残った八人はスタイルも良く美女ばかりだ。
中には雑誌などでよく見る子もいた。
ヒカリは周りを気にしないよう、イヤホンから流れる『嘘』の歌詞だけに集中した。
皆、慣れた動きで審査員にアピールしている。
ヒカリは凛として立ち、審査員に真っ直ぐな瞳を向けた。
「それじゃあ、ヒカリさんゆっくりと歩いてみて、振り向いて思いっきり笑顔を見せて!」
審査員の指示に、愛輝は大きく深呼吸をして前へ進み出た。
振り向いたヒカリは、思いっきり笑顔を見せた。
前に並んだ審査員全員が息を呑み、一瞬だが空気が止まった。
次の日、事務所にヒカリの合格の連絡が入った。
直ぐに撮影に入る事になり、原田もヒカリに付いて回るようになった。
ヒカリは、初めて撮影のカメラの前に立つ……
ヒカリのモデルとしての一歩を踏み出した。
雑誌の撮影は思いのほか順調にすすんだが、予定より多いカットが撮られる事になった。
雑誌の発売日、愛輝は美香と一緒に書店に行き雑誌を手に驚いた。
ヒカリと大きく書かれ表紙に、ヒカリの笑顔があり二人は驚いて顔を見合わせた。
「おい、見て見ろよ! ヒカリだって? めっちゃ可愛いじゃん」
隣りに居た高校生の声が、なんだかむず痒い……
愛輝と美香が書店にいる間にも、雑誌を買う何人もの男女があった。
ファッション雑誌であるにも関わらず、男の子が雑誌を持ちレジに向かう姿もあった。
あっという間にヒカリの話題があちらこちらで広がった。
ヒカリと言う名しか分からない事が、人々に興味をもたらしていたのだ。
謎の美少女とネットで噂まで広がり、雑誌の取材、CMの依頼と忙しい日々となって行った。
ヒカリが出るもの全ての売り上げが上昇し、ヒカリを使いたいとうスポンサーが後を絶たなかった。
そんな中で写真集の発売も決まった。
愛輝の意志を無視して、ヒカリが歩き出す事に少し違和感を覚えはじめていた。