伊藤夏海、中学2年生。自分を客観的に見ると、「顔、スタイルは並でちょっと頭がいいが運動神経は悪い明るい子」と、こんな感じだろう。色恋沙汰は一切ない。友達と部活で出来上がった中学生活を送っているように見えるだろう。
そんな私にも好きな人がいる。成田春樹、幼稚園の幼なじみだ。もう好きになって4年、近所だからいつも一緒に帰る。

「お前さ、好きな人いんの?」
ある日の帰りに春樹が聞いてきた
「ん?春樹」
なんとなくだった、さらっと言えてしまった。それは2人がいた時間の長さからだろうか、私の性格の問題なのかわからない。
「はいはい。笑」
春樹は一切信じようとしなかった。
「ほんとだよ、ほんと。ずっと好きだった。4年くらい」
「えっ…」
春樹は困っていた。そして続く沈黙_____
「ごめん、俺…夏美がそんなんって気づいてなくって、ごめん。ごめん。」
「いいよ、振られるって分かってた」
涙は出そうに無かった。振られてもなお、いつかは叶うって信じてた自分がいたから。
「夏美にはもっといい人がいるよ」
「そういうの要らないから」
私はとっさにそう言ってしまった。そして後悔した。また続く沈黙。いつもはすぐに着いてしまう家までの距離が2倍にも3倍にも感じられた。私は長い沈黙の先に口を開いた
「絶対また告白するね。約束する。どのくらいかかってもいい。私は待ってるから」
そして、いつものように笑ってみせた。春樹は驚いた顔でこっちを見て、そしていつものように笑った。
「お前らしいな」
「そう?ありがと。私サバサバしてるかな」
「そっちの方がいいよ。正直に言ってくれてありがと」
振られたのに、自分の気持ちがもっと強くなっていっているのが分かった。この初恋だけは特別なんだと思った。