大学の近くの街は、ちょっと切ない感じのする街で、僕は好きだった。

その街も美紗と一緒だと、全然寂しくない。

夜中の学校から住宅街へと続く細い坂道を、その横の道路を車がピュンピュン通り過ぎるのを横目にしながら、美紗と二人で歩いて上っていく。

「自転車乗らないの?」

「あ、はい」

「重くない?持とうか?」

「え、いいんですか?ありがとうございます!」

そんな過剰反応してくれると僕も嬉しい。

自転車を持ち、閉まった店の群れの中、誰かが見つめているような気分と、僕が美紗を見つめている幸せな気分と、そして美紗が僕を見つめている気分が交差して溶け合って、幸せかもしれない。そんなことを考えていた。

でも、こんな話をしてもきっと誰も乗って来ないだろうな。乗ってくるとか来ないじゃないけど、幸せってのは、そんな簡単なもんじゃないし。ただの恋愛麻薬の初期症状な訳で。

ただ、美紗の笑顔はかわいくて、あっという間に美紗の下宿まで着く。

階段を上り、そのまま家に入り、出されるままに料理を食べた。おいしかった。料理も上手いんだねというと美紗は恥ずかしそうに笑った。

寝室らしき部屋に通され、僕はまず押入れを開けた。

「な、何してるんですか先輩!」

慌てる美紗。

「いや、誰か隠れてるんじゃないかと思って」

「話が上手く行き過ぎてるんじゃないかってことですか?」

「甘い話が、罠に変わる時ってのは、大概この辺から、カメラを持った男達が出てくるもんなのさ」

「私、そんなことしませんっ」膨れっ面をしてみせる美紗に、僕は誠心誠意で誤った。 

お互いにシャワーをさっと浴びる。ベッドに入って待っているとパジャマ姿の美紗が来た。

「先輩、ほんとはさっき、私の下着見ようとかしてませんでしたか?」

「あ、うん。……いやしてないしてない」

「怪しいなぁ」

「先輩じゃなくていいから、もう、リヤでいいから」

「じゃあリヤ先輩」

「うーん。ところでさ、何か言いたい話でもあるんじゃないの? 何か聞きたいこととか、外では話せないこととか。だから呼んだんじゃないの?」

「リヤ先輩。私から言わせます。それ?」

「うん?」

美紗は黙った。

「好きだってこと?」

「ちゃんと言って下さい」

「俺、美紗が好きだ」

「私もです。私も、リヤ先輩が好きです。」

うん?

僕はこういう時にすることを一つしか知らなかった。

僕は美紗のベッドに上がると美紗にキスをした。

なんだかこういうことは、ずっと前からできたんだと、そういう気分になった。

自分はこういうことができる人間で、こういうことが平気なんだと。

ううんほんとは、美紗のおかげだ。全部。こんなことも美紗がいてくれたから、できた。

「ありがとう」

そういうとにっこりと笑顔で美紗は、「こちらこそ」

と言った。僕らは抱き合って、そしてそのまま幸せな眠りに入っていった。