「私、全然怒ってないよ」



何メートルか俺たちの間に距離はあった。

それを詰めるように、彼女は俺の方へ歩を進めていた。




「私は、翼くんが謝るのを待っていただけ。あの時は少しカッとしたけどね」



彼女は俺の隣に来て、てへっと舌を出し、戯けて笑った。




「でも、これからずっと翼くんが謝らなかったら、私、消えるまであなたと関われなくなるんだから。それだけは傷つくので深く反省してください」




右手の人差し指を自分の口元に当て、彼女は笑った。








本当に彼女には敵わない。



明るくて優しくて、強い心を持つ彼女には。




生きていたら、必ず将来に期待されていただろう。




分かっていたはずだ。




彼女と過ごせる日々は残り少ない。俺が謝らなかったら、本当に俺たちの関係は切れていたのかもしれない。






約束しよう。俺は彼女が消えるその瞬間まで、一緒にいると。