「小原(こはら)さん」
不意に名前を呼ばれ、振り向く。
端正な顔立ちをした美青年が、じっとあたしを見据えた。
「……………」
だが無視だ。
「急にメアド聞いたら、おかしいかな」
「そうですね」
適当に返事をすると、あからさまにショックを受けたように肩を落とし、眉を下げる。これっぽっちも罪悪感を覚えないのは勤務中だからだろう。
お客さんがこない時間は、正直言ってかなり苦痛で。
働き始めた頃は息抜きがてらに丁度良かったが、あることが頻繁に起きてから物凄く嫌になった。
「昨日もおはようって言えなかった」
「ふーん」
「どうすればいい?」
………この、謎の恋愛相談タイムにされてから。
「知らんがな」
「えー、小原さん女の子だからさ」
女が皆同じ生物だと思うなよ。
そう突っ込むのも疲れるくらい、この男は面倒くさい。女々しい。そして鬱陶しい。
女の子なら誰でもいいならお客さんにでも聞いてろ。
貴様の顔面なら目をハートにして答えてくれるはずだ、うん。
「ていうか、あたし言いませんでしたっけ。勤務中はそういう話しないでくださいって」
「だって小原さんすぐ帰るから」
当たり前だ。
バイトで疲れてるっていうのに、そのあと他人の恋愛相談なんて聞いてたら身が持たない。