幾つか質問をしてみて、わかったことがある。
交通事故に遭う直前の記憶まではあり、肝心の俺との記憶もはっきりと思い出せるようになっていた。
けれど、それからの記憶はなく、さっきまで手を繋いでいたリコはいなくなったらしい。
願っていたことは叶ったんだと思う。
「………カケル?」
「ご、ごめ…、ちょっと、トイレ…」
目の奥がじんと熱くなって、慌てて病室を飛び出す。
記憶は取り戻して欲しかった。
まだまだ時間はかけていいから、少しずつでいいから思い出してくれるのが嬉しかった。
ただ、それは俺の記憶をなくしたリコに思い出してほしくて。
交通事故に遭う前のリコが好きだ。
それは胸を張って言える。
俺のことを忘れてしまったリコも、涙が頬を伝ってしまうくらい好きだ。
「……っ、……なんで…?」
もう存在しない彼女。
たった2ヶ月間で、リコとは違う何かに惹かれて、どこか魅力的な彼女に堕ちるような恋をしてしまった。
誰にも知られていない彼女は、俺の記憶でしか残っていない。
それも歳を重ねるごとに薄れていくんだろうと思うと、堪らなくて堪らなくて。
男子トイレの中だということも忘れて、声を押し殺して泣いてしまった。

