本当に混乱しているのは交通事故に遭った彼女自身なのに。
不安だらけで、欠けている記憶に悩ませられているのは、リコなのに。
一番に優先すべきなのは、俺じゃない。
リコだ。
「………カケルさん?」
前にも後ろにも進めない彼女の手を、俺が掴んであげなくてどうする。
「わかった」
「ほんとですか!」
「うん」
「じゃ、じゃあ、カケル!」
照れ臭そうに俺の名前を呼び捨てる練習をするリコに、頬が緩んでしまった。
俺が知っていても知らなくてもどうでもいい。
この一分一秒に意味なんてなくていいから、彼女が記憶を取り戻すまで、望むことは全て叶えてあげなくては。
「一応、自己紹介したほうがいい?」
「あ!はい!お願いします!」
「時谷 翔(トキタニ カケル)です。中小企業だけど働いてます。リコより二つ年上で、24歳。六年前から付き合ってます。よろしく」
改めて口にすると恥ずかしくて、軽く頭を下げて誤魔化すと、リコは歓迎するように小さく拍手をしてくれた。
しばらくしてぱちぱちと音が止み、リコが控えめに咳払いをする。
「えー、一ノ瀬りこです!カケルさんの二つ下ってことは22歳なのかな?好きなものは犬とプリンです!よろしく!」
これが、俺とリコの二度目の出会いだった。

