様々な検査を受けた結果、彼女は一部、記憶障害を起こしていると診断された。
俺だけでなく、数人の友達の顔と名前を忘れてしまっていて、医師によれば回復を祈るしかないらしい。
無理やり掘り起こそうとすると、彼女に負担を与えてしまうとも言っていた。
嘘だ、そう言わずにはいられなかった。
「ごめんね、カケルさん。今はすごく辛いと思うけど、あの子すっごくカケルさんのこと好きだったから、そのうち思い出すと思うわ」
「………はい」
「お見舞い、時間のあるときにでいいから、来てあげてね」
リコの両親はそう言ってくれたけど、今のリコにとって俺は彼氏ではなく、赤の他人。
どうすればいいかわからなかった。
涙も出なかった。
病室を開けて、無事なリコの姿を目にして泣きそうになる俺を、いつもみたいに「カケル」って笑って呼んでくれると思うだろ。
誰ですか、だってさ。
「……っ、ぅ、…、…っ」
辛いのは俺だけじゃない。
他にも忘れられた人はいるんだ。
それも皆、大切なリコの親友で、心の底から信頼した人ばかりだった。
わかってんだよ、そんなの。
受け入れることができない俺は、まだ子供だって、瞼の奥のリコは微笑んだ。