彼女が交通事故に遭ったらしい。


社会人である僕は今後に関わる重要な会議で、連絡が入ってからすぐに会社を抜け出せず、三時間もあとに彼女のもとへ向かった。


正直頭の中は真っ白で、会議の内容は全く覚えていない。

ただただ、彼女が心配だった。


病室の番号を確認して、息を切らせながらドアを勢いよく開ける。

目を真っ赤にした彼女の両親の目の前には、真っ白いベッドで横たわっている彼女がいた。


頭やおでこや頬や腕や足には痛々しく包帯が巻かれていて、慌てて彼女のもとへ駆け寄る。



「リコ…、これ、骨とか、折れて…」



震える声でそう呟いて、気がつく。

俺を見つめるリコの瞳は、いつもとどこか違っていた。



「えっと…、誰ですか?」


「………え」



がつんと、鈍器で殴られたような衝撃に襲われる。



「何言ってんのあんた!カケルさんじゃない!彼氏の!こんな時にふざけるのはよくないよ?」


「え、お母さん、え…、なに?」



リコのお母さんが必死に俺のことを説明しても、リコはふざけている様子もなく、本当に何がなんだかわからないという表情をして聞いている。


そのとき、俺は嫌な言葉が頭を過ぎった。





―――記憶喪失という、言葉が。