last smile

 あの部屋の空間に。

 すべてにあなたの愛情があふれていた。

 気づかないふりをしていたのは、わたしの方。

 優しさに甘えていた。

(それに気づいたから、こうしてあなたのマンションまで行ったのに)

 少し伸びた髪を見せたくて。

 いつも訪れていた自分とは、違う自分で会いたくて。

 でも、あなたはもういない。

 もう、会えない。


『最後に笑ってくれたよね。

 それで充分だと思った。

 その笑顔を見れただけでいいと思った。

 もう、ここへ思い残すことはないと。

 ここでの一人暮らしは寂しくて。

 淋しすぎて。

 もしかしたら、俺の方が君に安らぎを求めていたのかもしれない。

 ありがとう。

 そして、さようなら。

 君がこの先、幸せであるように』


 便せんに涙が落ちて、文字がにじんでいく。

(やっと、自分の気持ちに気がついたのに)