ひとつ上の姉が15歳の誕生日を迎えた。
私の姉、クロエはとびきり美しくて、優しくて、私にはもったいないほどの自慢の姉だ。
姉の名前は父がつけた。
美しい姉にぴったりな名前。
私の名前、リリーも父がつけた。
母は私を抱きしめるたび、
「リリー、あなたは私とお父さんの二人の愛の証なの。
私のたからもの。」
…いつからだろう。
この言い聞かされてきた言葉を重荷に感じるようになったのは。
父は人間で、ある日突然海に来なくなったそうだ。
母はそれから、女手一つで私たちを育ててくれた。
父は人間、母は人魚。
2人で子供を育てるなんて、出来るわけがなかった。
人魚は人間と子どもをつくることによって子孫を残す。
だから、16歳になった夜、人間の男性を誘惑するために海の上へあがる。
母も、例外ではなかった。
16歳の誕生日、船に乗る漁師だった父をみつけ、声をかけた。
その後、何度も何度も父に会いに通い続けるうちに、本当に恋に落ちてしまった。
でも、姉が生まれてしばらくして、父は来なくなった。
それから、私がお腹にいることを母は知ったのだそうだ。
でも、母は辛かったと思う。
母の話にはいつも父への愛が溢れていた。
母にとって、私たちが唯一の父との想い出であり、証なのだ。
それを幼心に悟っていた私たちは、お互いにかけがえのない存在だった。
私たちは2人だけの姉妹。
そう、毎日のように呟いて。
私は姉のことが大好きったし、私も愛されていたと思う。
そんな姉が今日15歳を迎えた。
彼女は綺麗に着飾っていて、輝く金色の髪が波に流され揺らめいている。
真珠のネックレスが光を反射して、キラキラ光る。
綺麗な貝殻のピアスをつけて振り向いた姉の瞳が、私をとらえた。
エメラルドグリーンの瞳が柔らかく微笑む。
「リリー、行ってくるね」
私は頷いて、少し背の高い姉をみつめた。
その瞳と目が合うと、それは優しく細められる。
それがあまりにも綺麗で、温かくて…。
「じゃあ、楽しんできてね、お姉ちゃん。
私ちょっと出かけてくるね」
「分かった。でも、そんなに遠くに行っちゃだめだよ?
儀式までには帰ってきてね。」
「すぐ、帰ってくるよ」
そういって軽く手を振る。
ヒレを軽く振ると、小さな泡ができた。
その泡ごしに姉の姿が少し滲んで見えた。
外に出ると、たくさんの魚たちが出迎えてくれた。
どうせ邪魔になるし、姉も準備があるから、と思って出てきたものの、特に行く当てもない。
このままここにいるのも悪くないか、と思っていると、魚たちの群れの中に一匹の熱帯魚を見つけた。
赤色で、少し白いラインが入っている、小さな熱帯魚。。
そういえば、小さいころ姉とよく遊びに行ってたところにこの熱帯魚の群れがいた。
沈没した海賊船。
そこは子供にとってどんなに刺激的で、素晴らしい場所だっただろうか。
船長室に入って海賊ごっこをしたり、宝探しをしたり…。
私たちだけの秘密基地だった場所。
気づけば、自然とそこに向かって泳いでいた。
何度も行き来した道は今でも覚えている。
しばらく泳ぐと、船のシルエットが見えてきた。
昔はこれが見えると心がざわついて、全身に鳥肌が立って、2人で顔を見合せたっけ。
姉と過ごした幼い日々が懐かしい。
また、お姉ちゃんとここに来よう。
そんなことを思いながら船内をまわった。
木でできた大きな舵のある海賊船。
舵は昔と変わらぬ美しい装飾が施されている。
私はこの舵がいちばん好きだった。
階段の手すりにも細かい彫刻が彫られている。
船長室は扉が歪んでしまったのか、もう開かない。
甲板に出て、下を見下ろす。
船に気を取られすぎて気づかなかったが、熱帯魚の群れが気持ちよさそうにゆらゆら泳いでいる。
それは昔と変わらない光景だった。
ただ、ひとつ違うのは、姉が隣に居ないこと。
そう思うと、なんだか寂しくなってきた。
もう帰ろうと振り返った瞬間、少し離れたところに女の人がいることに気づいた。
あまりに突然のことで、小さな悲鳴が漏れる。
「…なにをそんなに驚いているの?」
そう尋ねる彼女はよく見ると、とても美しい人だった。
白い髪に、白い肌。
そして、吸い込まれてしまいそうなほど深い、紫の瞳。
まるで、天使のような…
「あなたは、誰?」
「名前を聞くなら、貴方から名乗るべきね」
当然のことを言われ、少し焦りながら、
「私は、リリーです」
すると、女性はあははと声を上げて笑い出した。
「知ってるわ
昔よくここに遊びに来ていた子ね?」
「そ、そうです…」
なんで知っているのだろう。初めてあったのに…
「何故って…ここが私の家だから」
「は…?」
思っていた疑問に対して的確に答えられ、思わず声がもれた。
「私、魔女だから。
あなたの考えてるコト、みんな解るの。」
滑らかな唇が弧を描く。
花が咲くような笑みが、綺麗すぎて、目が離せない。
「何かあったら、また私の所へ来なさい?
きっと、何か力になれる。
そうね、ひとつ、予言をしてあげましょうか。」
魔女は静かに私を見つめた。
……何か言わなくちゃ。
口を開くけど、金縛りにあったように声が出ない。
体も、動かない。
そのまま魔女が近づいてきて、耳元に唇をよせた。
「あなたは、」
私の姉、クロエはとびきり美しくて、優しくて、私にはもったいないほどの自慢の姉だ。
姉の名前は父がつけた。
美しい姉にぴったりな名前。
私の名前、リリーも父がつけた。
母は私を抱きしめるたび、
「リリー、あなたは私とお父さんの二人の愛の証なの。
私のたからもの。」
…いつからだろう。
この言い聞かされてきた言葉を重荷に感じるようになったのは。
父は人間で、ある日突然海に来なくなったそうだ。
母はそれから、女手一つで私たちを育ててくれた。
父は人間、母は人魚。
2人で子供を育てるなんて、出来るわけがなかった。
人魚は人間と子どもをつくることによって子孫を残す。
だから、16歳になった夜、人間の男性を誘惑するために海の上へあがる。
母も、例外ではなかった。
16歳の誕生日、船に乗る漁師だった父をみつけ、声をかけた。
その後、何度も何度も父に会いに通い続けるうちに、本当に恋に落ちてしまった。
でも、姉が生まれてしばらくして、父は来なくなった。
それから、私がお腹にいることを母は知ったのだそうだ。
でも、母は辛かったと思う。
母の話にはいつも父への愛が溢れていた。
母にとって、私たちが唯一の父との想い出であり、証なのだ。
それを幼心に悟っていた私たちは、お互いにかけがえのない存在だった。
私たちは2人だけの姉妹。
そう、毎日のように呟いて。
私は姉のことが大好きったし、私も愛されていたと思う。
そんな姉が今日15歳を迎えた。
彼女は綺麗に着飾っていて、輝く金色の髪が波に流され揺らめいている。
真珠のネックレスが光を反射して、キラキラ光る。
綺麗な貝殻のピアスをつけて振り向いた姉の瞳が、私をとらえた。
エメラルドグリーンの瞳が柔らかく微笑む。
「リリー、行ってくるね」
私は頷いて、少し背の高い姉をみつめた。
その瞳と目が合うと、それは優しく細められる。
それがあまりにも綺麗で、温かくて…。
「じゃあ、楽しんできてね、お姉ちゃん。
私ちょっと出かけてくるね」
「分かった。でも、そんなに遠くに行っちゃだめだよ?
儀式までには帰ってきてね。」
「すぐ、帰ってくるよ」
そういって軽く手を振る。
ヒレを軽く振ると、小さな泡ができた。
その泡ごしに姉の姿が少し滲んで見えた。
外に出ると、たくさんの魚たちが出迎えてくれた。
どうせ邪魔になるし、姉も準備があるから、と思って出てきたものの、特に行く当てもない。
このままここにいるのも悪くないか、と思っていると、魚たちの群れの中に一匹の熱帯魚を見つけた。
赤色で、少し白いラインが入っている、小さな熱帯魚。。
そういえば、小さいころ姉とよく遊びに行ってたところにこの熱帯魚の群れがいた。
沈没した海賊船。
そこは子供にとってどんなに刺激的で、素晴らしい場所だっただろうか。
船長室に入って海賊ごっこをしたり、宝探しをしたり…。
私たちだけの秘密基地だった場所。
気づけば、自然とそこに向かって泳いでいた。
何度も行き来した道は今でも覚えている。
しばらく泳ぐと、船のシルエットが見えてきた。
昔はこれが見えると心がざわついて、全身に鳥肌が立って、2人で顔を見合せたっけ。
姉と過ごした幼い日々が懐かしい。
また、お姉ちゃんとここに来よう。
そんなことを思いながら船内をまわった。
木でできた大きな舵のある海賊船。
舵は昔と変わらぬ美しい装飾が施されている。
私はこの舵がいちばん好きだった。
階段の手すりにも細かい彫刻が彫られている。
船長室は扉が歪んでしまったのか、もう開かない。
甲板に出て、下を見下ろす。
船に気を取られすぎて気づかなかったが、熱帯魚の群れが気持ちよさそうにゆらゆら泳いでいる。
それは昔と変わらない光景だった。
ただ、ひとつ違うのは、姉が隣に居ないこと。
そう思うと、なんだか寂しくなってきた。
もう帰ろうと振り返った瞬間、少し離れたところに女の人がいることに気づいた。
あまりに突然のことで、小さな悲鳴が漏れる。
「…なにをそんなに驚いているの?」
そう尋ねる彼女はよく見ると、とても美しい人だった。
白い髪に、白い肌。
そして、吸い込まれてしまいそうなほど深い、紫の瞳。
まるで、天使のような…
「あなたは、誰?」
「名前を聞くなら、貴方から名乗るべきね」
当然のことを言われ、少し焦りながら、
「私は、リリーです」
すると、女性はあははと声を上げて笑い出した。
「知ってるわ
昔よくここに遊びに来ていた子ね?」
「そ、そうです…」
なんで知っているのだろう。初めてあったのに…
「何故って…ここが私の家だから」
「は…?」
思っていた疑問に対して的確に答えられ、思わず声がもれた。
「私、魔女だから。
あなたの考えてるコト、みんな解るの。」
滑らかな唇が弧を描く。
花が咲くような笑みが、綺麗すぎて、目が離せない。
「何かあったら、また私の所へ来なさい?
きっと、何か力になれる。
そうね、ひとつ、予言をしてあげましょうか。」
魔女は静かに私を見つめた。
……何か言わなくちゃ。
口を開くけど、金縛りにあったように声が出ない。
体も、動かない。
そのまま魔女が近づいてきて、耳元に唇をよせた。
「あなたは、」

