さくら、舞う。ふわり


 リビングのテーブルにケーキを置くと、その足で今度は綾人の部屋に向かう。

 彼の父親は、もう長らく海外で仕事をしていて、実質この家は綾人がひとりで住んでいる。勝手知ったる彼氏の家と、薄暗い室内を私は迷うことなく進む。

 どうせならそっと忍び込み、ベッドにもぐって驚かせてやろう。その時の私は、びっくりする綾人の顔を想像して、とてもわくわくした気持ちだった。

 けれども実際は、逆に私が驚かされる結果となる。

 部屋に入り、綾人が眠るベッドのそばまできて、そして愕然とする。なぜかってそれは、彼が眠るそのとなりに、知らない女性が眠っていたから。

 頭部へ見えないハンマーが下ろされたような、全身に駆けめぐるほどの酷い衝撃が走る。

 その場から逃げ出したくて、けれども足がいうことを利かない。茫然と立ちすくんでいると、私の気配を感じたのか、ゆっくりと綾人のまぶたが持ち上がる。

「……由衣?」

「……」

 なぜ何ごともないように、私の名を呼ぶのだろう。そう思ってすぐ、綾人は朝に弱いことに気づく。きっとこのひとは寝惚けていて、となりで寝ている女の存在など忘れてるんだ。

 ショック過ぎる出来事が起こると、人間の思考はストップしてしまうんだって、私は今初めてそれを知った。