ツリーの飾りつけを終えた私たちは、包装紙や脚立などを片づけつつ従業員用の廊下へ引っ込む。
すると、思い出したように大熊さんが「そういえばね」とこちらを振り返った。

「久しぶりに浜ちゃんとお茶したのよ!……ほら、彼女ブラマで働いてるじゃない?」

「浜谷さん!わぁ、元気そうでしたか?」


長年うちでパートとして働いていた浜谷さんは、同じく勤務歴の長い大熊さんとも似たような性格で気が合っていたようで、辞めてからも付き合いは続いているらしい。
浜谷さんがブラマへ仕事を変えると聞いて、ちょっといいなぁなんて思ったこともあった。

元気だったかどうかそんな単純な質問をしただけなのに、大熊さんの表情は浮かなかった。

「それが……そうでもなかったのよ。あ、体調が悪いとかじゃないのよ?その……ブラマの裏事情とか色々あって、あまり元気じゃなくてねぇ」

「裏事情?」

「売上重視なのは分かるけど、現場の声が上層部には届かないみたいよ。アレコレ工夫して提案しても直属の上司に訴えた時点でボツになるって。売り場の拡大縮小も現場の判断では出来ないみたい。完全なワンマン会社って言ってたわ。大手ってどこもそんなもんなのかしらね?」


大熊さんの話は、察しがついていたこととは言え興味深かった。
たしかに亘理さんはたしかに言っていたのだ、ブラマがブラック企業だと。
でもきっと、それだけじゃない何かかブラマにはあるのだ。


「お給料は悪くないけど、やりがいは感じられないって嘆いてたのよね。浜ちゃんもコマチが好きだったからね」

「…………そうですか」

「彼女の口振りからすると、まだまだ言えない話もたくさんあるみたいだった。……ねぇ瑠璃ちゃん、いっそのことブラマにスパイでも送り込む?」

「スパイ!?」


突拍子もないことを大熊さんが言い出すから思わず笑ってしまったけれど、浜谷さんの話は亘理さんの話と一致する。
どの程度不満を感じるかは人それぞれにもなるが、大型の店舗を全国にいくつも抱えるブラマみたいな企業は、現場の声にいちいち耳を傾けていられないのではないか。

結局、統率をはかるために上からの指示を一斉に送り、それに倣ってすべての店舗で足並みを揃える。
うちのような小さなスーパーには分からない事情があるようにも思えた。もちろん、どちらがいいとか悪いとかは言えないが、合うかどうかは働く人の気持ち次第だ。