するとそこへ、テーラーバッグと紙袋を持った亘理さんが通りかかった。

「あ、白石さん。戻りました」

「おかえりなさい。スーツ買えたんですね」

一時間ほど抜けます、とみんなに声がけして外出していた彼は、申し訳なさそうにうなずいた。

「はい、抜け出してすみませんでした」

彼はそう言って事務所へ入って行ったが、ものの数十秒で戻ってきた。


「ちょっとお手伝いしていただいてもいいですか」

と声をかけられ、私はなんだろうと思いながら彼についていく。
彼は倉庫へ足を運ぶと、いくつか什器を見繕って一緒に持つように私を促した。
大人二人で運べば重くはないものだ。

「これ、どうするんです?」

店舗へ運びながら聞いてみると、彼は一瞬説明しようと口を開きかけたが、すぐにやめてしまった。

「説明すると長くなるので、とりあえずあとで」

「分かりました」


バラバラだった什器が目の前であっという間に組み立てられていくのを、私はただ呆然と見ていた。
亘理さんは手馴れた様子でいくつもの什器を完成させていく。
そこそこ大きいサイズのものもあるのに、それを軽々と持ち上げてサクッと組み立てる姿は、細身の身体からは想像もつかない力だと思った。

この人ってもしかしたら、ものすごい集中力を持ってるんじゃなかろうか。

背の低い什器をいくつか並べ終わったあと、彼はエプロンのポケットに突っこまれているぐるぐる巻きになった資料を取り出した。

「朝一で本社にディスプレイ変更案を伝えたところ、すべて任せるってことでした。変更後の事後報告でいいって言われたので、さっさと変えちゃいましょう」

「こ、これ今日中に全部変更するんですか?この資料の通りに?全部!?」

「はい。出来ることは早めにやらないと意味ないですし」

ひゃー。簡単に言うけど、ディスプレイの変更は重労働だ。
部門別に担当社員さんがいるから、みんなにも伝えて協力してもらわないと。

「じゃあこれコピーして各部門に渡してきます。什器はこれで全部足ります?」

「俺の計算が合っていればこれで間に合うはずです」

うなずいた彼の言葉は、どうしてなのか疑う必要はないと感じる。
そう感じてしまう自分は、無意識のうちになんだかんだで彼を信頼し始めてるのかもしれない。