洗濯物を干し終わるのと、亘理さんが食べ終わるのはほぼ同時だった。
彼は食器をキッチンのシンクへ置くと、腕まくりして洗い物を始める。どうやらひと通りの家事はこなせるようだ。
水の流れる音を聞きつつ、私は洗面所へ洗濯カゴを置きに行った。

「元カノに連絡して、スーツ届けてもらうとかどうですか」

聞こえないかもしれないと思ってそう言ったけど、彼の耳にはちゃんと届いていたらしい。
リビングから「うぅーん」という歯切れの悪い返答があった。

「さすがにそれは……」

「会いたくないってことですか?」

「いや、今の恋人に悪いでしょう。元彼のスーツを渡しに行くなんて、なんだかねぇ。もう捨てているかもしれませんし」

「亘理さんって、意外とものすごく気を遣う人なんですね」

「あのー、白石さんって俺のことなんだと思ってます?」

的確なツッコミが入ったので、洗濯機のヘリにつかまって笑いをこらえた。
彼にはなんでも言えてしまうので、つい口が滑る。
あくまで職場の上司だということは忘れずにいたいのに。

すると、亘理さんはひょこっと私のいる洗面所に顔を出した。

「明日、ちょっと抜けてスーツ買いにいってもいいですか?」

「はい、もちろんいいですよ。それならついでに物件探しもしてきたらどうですか?」

なんとか笑いを封印してそのようにすすめてみたのだが、彼はげんなりとした顔で首を振るのだった。

「いや〜、物件探しは後回しにします。そんなことよりやることがたくさんありますから」

「今日はもう仕事しないで寝てくださいね?そのために寝床を提供してるんですから!」

「えぇ……、…………はい」

おそらくこのあと持ち帰った仕事をやるつもりだったのだろう。亘理さんは図星をつかれたみたいに困っていたけれど、諦めてうなずいてくれた。
部屋主は私なのだから、ここでは立場は逆転している。