そこにいたのは、私と同じ早番だったはずの亘理さんだった。
彼は毛布に身体をくるみ、机に置いているパソコンを操作していた。
そして、こちらを見て目を見開いている。
「え!?亘理さん!?な、なんで!?」
「び、びっくりしたー」
突然、私が部屋に踏み込んできたから相当驚いたらしい。
彼は衝撃が抜けきらない顔でノックくらいしてくれませんか、とため息をついていた。
「お財布をロッカーに忘れたので取りに来たんですけど、亘理さんは?早番でしたよね?」
よく見えるようにベージュの長財布を見せると、亘理さんはやっと我に返ったみたいな表情へ変わって腕時計を見下ろした。
「……あ、もうこんな時間なんですね。さっき確かに遅番さんに声かけられたような気がする」
「鍵、閉め忘れないでくださいね」
「はい、分かりました」
「まだ残ります?」
何の気なしに聞いただけなのだが、彼は予想外の返事をした。
「今日もここに泊まりますので、あとで良きところで鍵はかけておきます」
「─────は?」
上司だということを忘れて、つい失礼な口を聞いてしまった。
だって、誰が聞いてもおかしいことを言ったからだ。
「泊まります」?それも、「今日も」?
いつから泊まってるの?
唖然としている私に、亘理さんは困ったように笑った。
「帰るところないんです、俺。みなさんには申し訳ないんですが、仕事が落ち着くまではここに泊まろうかと……」
「え?え?ちょっと待ってください」
「まあ、山ほど仕事もあるからちょうどいいんですけどね」
「待ってくださいって!」
語気を強めたせいか、彼はぱちくりと私を見つめる。
色々とツッコミどころが満載なことを発言しているって自覚はないらしい。