何事かと探してみると、室内灯のチェックをしていた業者さんが電球を落としてしまったようで、高い脚立から降りてくるのが見えた。

何気なく駆け寄って、「大丈夫ですか?」と声をかけてみた。


すると、脚立を降りきったところでその人は私の顔をまじまじと見つめてきた。


「???」


どこかで会ったことがあるのだろうか?
私は彼を見たことはなかった。

年の頃は三十歳くらいだろうか。
絶妙に緩くうねった黒髪は、寝癖なのか天然パーマなのか社会人にしてはちょっと長め。
ぼやーっとした印象を受ける顔をしていて、ブサイクではないんだけどこれといって取り立てて抜群にいい容姿とは言えなかった。なんというか、とにかく普通?
背はそこそこ高めだけど、若干猫背気味である。


彼はニ、三回ぐるぐるっと腕を回して肩甲骨ほぐしをしたあと、電球のガラス片が散らばった床を見下ろした。


「あ……、すみません。床、あとで掃いておいてもらえませんか」

「あ、はい。分かりました」


無気力そうな声だなぁと思いながらうなずき、すぐに小ぼうきとチリトリを持ってきてガラス片を片づける。
手早くこなしていると、先ほどの彼が脚立を移動させてまた違う室内灯をチェックしようとしていた。

その背中に話しかける。


「あのー、脚立揺れませんか?下から支えましょうか?」

「あぁー……いや、1人で大丈夫です」


答えた彼の手にはLEDライト。
店内の室内灯を全部LEDライトに交換しているのだろうか?誰の指示?前の店長?

ま、いっか。

あまり気にせずに仕事に戻ろうとしたら、「あのー」と逆に声をかけられた。


「開店したらいったん作業は中止するので、まだやっててもいいですか?」

「いいと思いますよ。というか、開店してからも作業は続けてもらっても大丈夫ですよ」

「え。それはさすがにお客様が……」

「だってお客様、全っっ然来ませんから。平気だと思います。あとで店長に言っておきますね」


ヒマで困っちゃうくらいお客様が来ないのだから、掃除をしようが電球の交換をしようがなんの問題もない。

業者さんだって暇じゃないだろうし、さっさと作業を終わらせたいだろう。
そう思って、まだ何か言いたげな彼に「じゃあ、よろしくお願いします〜」と軽く会釈して、私はその場から立ち去った。