毎年満開の桜が咲くあの道で君と出会った。

あの日
私は朝から泣いていた。
小学校の入学式の日…。


ただ純粋に怖くて不安で潰れそうだった。
人見知りの私は新しい環境に心細くて…。

「むりだよぉ~。ヒッ。みゆ1人で行きたくないよぉ~。」

「大丈夫大丈夫。みぃちゃんならきっとすぐ楽しくいけるから。ばぁちゃんお店あるから気をつけて行ってね。」

駄々をこねる私におばあちゃんは困ったような顔をした。

「ゔゔ…。」

「ごめんねぇ…後で行くからね。大きな声で返事するんだよ。」

「ゔん…いってくるぅ…ヒッ、ヒッ…」

強制的に行かされた。
泣きながら歩く通学路。
初めて1人で歩く通学路。
私と同じ1年生がたくさん歩いていた。



お母さんもお父さんと一緒に…

やっぱり…こわい。

涙があふれては落ちて…
それでもがんばって足を動かしていた。

「どうしたの?」

ってだれかのお母さん。

大きく首を振って少し走った。


はぁはぁはぁ…。

だんだん足が遅くなってもう動けなくなってしまった。
疲れたからじゃない。気持ちが前に進まなくて…。


「もぉ無理だよぉ。」

そんな独り言を呟いた。

その時誰かに肩を叩かれて振り返った。

「これやるよ!」

たぶん同じ1年生になる男の子。
桜の木の枝を私に差し出した。
薄いピンクで満開に咲いていた。
よく周りを見渡すと絵に書いたような桜…。

「泣くなよぉ。一緒に行こーぜ!俺も1人だから!」

「…。」

私はその桜を手に持ってその場から逃げた。

「えっ?ちょっとまってよ!」

着いてくる…。

「やだっ!こないで!!!」

それでも着いてくる…。

「なんで?桜返してよだったらー。」

「やだ!」

「なんで?俺がとったんだよ?」

どんどん足が早くなる私にその子は付いてくる。

私にお父さんもお母さんもいない。
私が生まれてすぐに亡くなったらしい。
私はおばあちゃんに育てられた。
でもおばあちゃんは毎日忙しかった。
仕方ない…今日だって。
おばあちゃんと行けないのも仕方ない。
ずっと我慢してきた。


学校に着くと名簿があった。

「みゆのクラスは…」
「2組!俺と一緒!」

相変わらずずっと着いてきた男の子は笑顔で言った。

「なんでみゆの名前知ってるの?」

「防犯ブザー」

名前書いてあったんだ…。

「名前見ていいなんていってない!」
「そんなルール無いでしょ!俺は春樹。」
「はるき…くん?」
「そう。お前泣き虫なんだなー!」
「えっ?それは…」
「よろしくな!泣き虫!」


その日
結局おばあちゃんは入学式に来なかった。
少し寂しくてまた泣き出しそうになった。

1人で学校を出てとぼとぼ歩いた。
家に向かって。
それすらも少し不安でぎこちなくて…
さみしかった。周りはお父さんお母さん…
いいな…。

「泣き虫~!」

後ろから声がして振り返ると朝の男の子。

「な、なに?みゆ忙しいから付いてこないでね!」

「俺も1人なんだぞー!一緒に帰ろーぜ。」

どうして春樹くんは1人なんだろう。
でも子供ながらにちゃダメだってことはわかってる。だから聞かない。
春樹くんも1人か…。

「しょうがないなぁー!」

帰り道は2人で。ゆっくり歩いて帰った。

これが春樹との出逢い。