【作戦 その1】
押すのがダメなら引いてみよう。
「ねー、最近耀のことあんま見なくない?」
「文香はなんか知ってる?」
「さあ?」
女子トイレで用を足していたら、たまたま来栖くんの取り巻き仲間の会話が聞こえた。
それもそのはず。
毎日来栖くん来栖くんと一緒に騒いでた女が、突然記憶を失ったかのように輪の中から外れたのだから。
クラスの中でも派手なグループに属する文香たちとは、休みの日に遊びに行ったりとそれなりに仲がいい。
ただ、こういうグループってやっぱり気が強い子が多いから、あんまり衝突しないように流れに身を任せる付き合いだけど。
「まあライバル減って助かるけどね」
「だねー」
お姉さま方、ちょっとは心配してください。
しばらくして文香たちの気配が消えたあと、個室からそっと出て教室へ戻った。
群がる女子の軍団で来栖くんの姿が見えない。
「………公ちゃん」
「ん?」
「来栖くんからあたしって見えるかな」
「見えるほどの隙間もないね」
「あたしがいないって気づくかな」
「どうやって?」
「話し声とか!」
「どうやって聞き分けるのよ」
「…へ、ヘルツ数とか…!」
「……………」
「……………」
5日間続けた結果。
接点すら生まれなかった。