至近距離には来栖くんの美しいお顔。
間違いなく、これは…キス。
勢いよく頭突きをした痛みさえも忘れるほど、あたしの体内放送では『来栖くんとキスをしてしまった』とてんやわんやなアナウンスを繰り返している、その一方で。
「…っ」
かあっと赤くなる来栖くんの頬。
つられてあたしの顔も熱を増す。
「く、来栖くん…?」
なんなの、その反応。
「重い。退け、ブス」
「え!?」
「最悪」
強くあたしの肩を押し退け、来栖くんは振り返りもせず、どこかへ行ってしまった。
取り残される、あたし。
どうしよう。あの来栖くんとキスしちゃった。
事故チューだけど。
想像よりも、本物はもっと柔らかくて。
自分の唇をなぞって、あの感触を思い出す。
それと共に脳裏に焼き付くのは、来栖くんの真っ赤に染まった頬と、動揺したような表情。
あれはどういう意味なんだろう。
「あ…、お水、忘れてる」
置き去りにされたペットボトルを手にとる。
王子様との初めてのキスは、ロマンチックな夜景で。
いくつもの苦難を乗り越え、両想いと知った2人は。
お互いを見つめ合いながら、熱く交わすはずだった。
それが、不慮の事故で叶うなんて。
素直に喜べない理由がもう一つあるけれど、ここで変に勘繰ったとしてもしょうがない。
真相を確かめるべく、来栖くんのもとへ向かう。
しかし。
その日から、来栖くんはあたしと口を利いてくれなくなった。

