あたしと来栖くんに特別な仲があることは、まだ公ちゃんにしか言っていない。


来栖くんの取り巻きたちに知られてしまえば、それこそ何をされるかわからないし、ハブられる未来がリアルに想像できるくらい、文香たちは恐ろしい。

きっと、あたしが文香たちの立場でもそうしていただろうし。


みんな来栖くんを独り占めしたいけど、簡単に抜け駆けできないのはそういう事情もあると思う。
女ほど怖い生き物はないってね。



「あ、あたし最後に顔の確認してくるわ!じゃ!」


「はーい」



気合十分なのは文香も同じで、グループの子たちと教室を出て女子トイレでお化粧直しみたいだ。



「耀はいいの?」


「うん!あたしは家でばっちり決めてきたから!ほら、水族館っていってたからさ、それに合わせてあんまり濃くならないようにナチュラルメイクで…」


「へーそうなんだー」


「まだ最後まで説明してないのに!興味ないでしょ!」


「ないわね」


「もうっ」



楽しみは早く訪れるもので、そろそろ出発の時間になる。

あたしは鞄に忍ばせておいたお気に入りの香水を取り出して、ちょっとだけ首元につけておいた。