(踏んだり蹴ったりだ……)
一度人気に火が付いた武久は今やどこへ行っても話題の中心である。
女性社員は当然のこと、男性社員も、果ては掃除のおばちゃんまで。老若男女問わず注目の的として引っ張りだこである。
(なによ……。ちやほやされちゃって嬉しそうにして……)
末は社長か会長かなんて噂されちゃって。
おだてられて会釈を返すだけで、また人気が上がるんだから簡単なもんだ。
(私にとって武久が必要でも、武久にとって私は必要ないのかも)
あいつの正体が皆に知れ渡った以上、いつまでも意匠設計部で働いているわけにもいかないだろう。
然るべき地位に着いて、後継者修行に勤しんでもらわなければ将来的にこっちだって困るのだ。
もう一緒に働くこともないのかなと思うと、ズキンと胸が痛む。
(それは……嫌……だよなあ……)
自分でもこの胸の痛みが意味するものが何なのか分からないまま、私はとんでもないものを目撃してしまうのである。



