“話がある”
武久が御曹司だと分かったその夜に、私の元に届いたのはたった4文字のメッセージだった。
(話すって……何を?)
周防社長と大立ち回りを演じた武久は、一度も私の目を見ようとしなかった。
武久が周防の御曹司だってこと。
……私は神に誓って知らなかった。
こんな重大な秘密を隠していたくせに、今更何を話すことがあるっていうのよ。
武久からのメッセージに私はとうとう返信をしなかった。
なんで武久だったんだろう。
なぜ、武久でなければいけなかったのだろう。
(そりゃあ、順番で言ったら逆なんだろうけど)
今の私は御曹司が実在したということを素直に喜べないよ。
……それどころか、武久が何も話してくれなかったことにショックを受けている。
御曹司の発見と引き換えに、何でも話せる喧嘩仲間の同僚を失ってしまったようで。
私は……武久と顔を合わせたくなかったのだ。
(なんで……こんなことになっちゃったんだろう……)
しかし、ひとが落ち込んでいる時に限って不吉なお知らせが届くのである。
「話し中のところ悪いけど……早宮さん、ちょっといい?」
……私は意匠設計部の部長から直々にお呼び出しを食らったのであった。



