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……それからの私ときたら、絵に描いたように酷い有様だった。
ほら、今日も不機嫌さを隠さないあいつのドスドスとした大きな足音が聞こえてくる。
「早宮は!?」
武久は襟元を緩めながら、開口一番私の居所を尋ねるのであった。
「お手洗いに行くって、出て行ったわよ」
「……っ!!またかよ!!」
わかっちがそう答えると、武久は苦々しい表情でイライラと頭を掻きながら己のデスクに戻っていった。
「ねえ、ホントに追い返して良かったの?」
「ありがと、わかっち」
私はわかっちにお礼を言うと、デスクの下から這い出て元のように着席した。
会社に戻ってきたというのに、上司への報告よりも先に私の所在を尋ねるなんて、よっぽど話がしたいらしい。
午前中は打ち合わせで出掛けていたから心穏やかに平和に過ごせたものの、またしばらくはこの不毛なかくれんぼを続けなければならないようだ。
背もたれに身体を預け、ふうっと大きなため息をつく。
……ここのところの私は少しおかしい。
まるで背中に武久に反応するセンサーでも付いているのか?ってくらい、あいつの気配に敏感で、つい過剰に反応してしまう。
武久がこちらに私を探しにこようものなら、都心に迷い込んだサルのごとく周防建設本社ビルの中を走り回り、隠れて、避けて、逃げまくり、挙句の果てには居留守まで使う始末。



