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(武久と会いませんようにっ……!!)
再三の祈りが通じたのか会社に向かう道すがら武久と顔を合わせることなく、なんなく意匠設計部のある10階までたどり着くことが出来た。
……しかし、そこからが大変だった。
意匠設計部の様子がおかしいことに気が付いたのは、エレベーターを下りてすぐのことである。
「おはようございまーす……」
いつも通り朝の挨拶をして入口を通り抜けた私を待ち受けていたのは、人、人、人。行く手を塞ぐように立ち止まる大量の人であった。
フレックスタイム制が浸透しているため、朝イチで出勤してくる人はまばら……なはずなのに。
なぜか意匠設計部にだけ黒山の人だかりが出来ていた。
武久と顔を合わせる以前に、出社がままならない。
思いっきり背伸びして、フロア内の様子を窺おうとしたが無駄だった。
微かにもれ聞こえてくる声に耳を澄ますと、誰かが言い争っている最中のようだった。
(朝からよくやるな~。こっちはそれどころじゃないっていうのに……)
私にとっては今日一日武久と顔を合わせずに、やり過ごすかを考える方がよほど重要だった。
そうやって他人事だと呑気に構えていたのが悪かったのか、思わぬところから私にも騒動が飛び火したのだった。



