見慣れた自分のアパートが見えてきたところで、隣を歩く武久に声をかける。
「送ってくれてありがと。もうここで大丈夫だから」
なんだか今日は普段以上にみっともないところばっかり見られてしまった。
今さら恥ずかしくなってももう遅いわけなんだけど、早く一人になりたかった。
「早宮」
「なに?」
武久の手が私の頬に触れる。
ゴミでもついていたのかと気楽に構えていたらそうじゃなかった。
……それは明らかな不意打ちだった。
武久は私の顔を両手で挟んで逃げられなくしたうえで、……1秒にも満たない、触れるだけの優しいキスをした。
「たけ……ひさ……?」
「いざとなったら俺がもらってやるから、もう変な男についていくな」
武久は振り絞るようにそう言うと、クルリと踵を返して駅へと戻っていった。
取り残された私はポカーンと立ち尽くすしかなかった。
(い、今のは……なんだったの!?)



