「あの……!!私、ここで見たことは会社の方には内緒にしておきます!!」

そう言うと田辺さんは面食らったように目を丸くした。

かと思えば、数々の取引相手を骨抜きにしてきたという必殺スマイルを見せてくれた。

「もしかして……万年筆の刻印、見ちゃったのかな?」

田辺さんは笑顔を顔に貼りつけたまま、ジリジリと私の眼前に迫ってきた。

「確か……早宮さんだっけ?」

下っ端の私の名前を知っていてくれているの?

間近に迫る王子フェイスについ見惚れてしまう。なんてキラキラしているんだろう。

極上の光景にゴクリと生唾を飲みこむ。

瞬きするたびに金色の鱗粉のようなものが、睫毛から振りまかれているようだ。

「本当に皆には黙っていてくれる?」

田辺さんは私を壁際まで追いつめると、少女マンガよろしく壁にドンと手をついて耳元で囁いた。

私はなす術もなくコクコクと黙って頷いた。