「もしかして、これですか?」

「見せてくれる?」

私は高鳴る心臓を落ち着かせるように胸に手を当てながら、拾い上げたばかりの万年筆を田辺さんに手渡した。

同じ社内にいるとはいえ、私と田辺さんでは扱うプロジェクトの規模が異なるため全く接点がなく、話すのは実は初めてである。

まともに顔が見られそうもない。

だって、もしこの万年筆が田辺さんの物だとしたら……それって……。

期待と不安が入り混じり沈黙が続く中、田辺さんは手渡された万年筆をマジマジと見つめると言った。

「ありがとう。見つけてもらえて助かったよ」

……やっぱり!!

……その瞬間、不安は喜びへと変わった。

武久の吠え面が目に浮かぶようである。

だって周防の名前が彫ってある万年筆を持っているってことは……田辺さんが周防の御曹司ってことでしょう!?

(さすが周防建設の御曹司だなあ……)

田辺さんは私の理想の御曹司サマそのもの。彼なら実は御曹司だって言われても誰もが納得してしまう。