「しょうがないわね、杏は」
私を膝の上にのせたままパクパクとお弁当を食べすすめる手つきには淀みが一切ない。
これが彼氏持ちの余裕というやつなのか。
大学時代に知り合った彼氏と熱烈交際中のわかっちには、私のように必死こいて御曹司サマを探す必要がない。
羨ましい奴め……。
この太もものムチムチとした感触を独占できる男が羨ましい。
私だっていい加減、格好良くって素敵な彼氏が欲しいよ……。
「本当に噂だったのかなあ……」
ここまで見つからないとなるとさすがの私でも弱気になってくる。
周防建設の御曹司様なんて本当はこの世に存在しなくって、ただの噂話に踊らされているだけなんじゃないのか。
所詮、御曹司なんて少女マンガやロマンス小説の中にしかしないのだ。
どうせ私なんか……と、やさぐれかかった心をなだめてくれたのはわかっちだった。
「落ち込むなんて杏らしくないわよ。もう少し探してみたら?私も手伝うからさ」
私はむくっと頭を持ち上げると、お弁当箱を片付けていたわかっちに速攻で抱き付いた。
「わかっちありがとう!!」
「ちょっともう!!大袈裟ね」
こうしてわかっちの協力も得ることが出来た私は、もう少しだけ周防建設の御曹司様探しを続けることにしてみたのだ。



